コラム
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続きまして、アトピー性皮膚炎治療薬のデュピクセント®その③です。
大切なことに関してはその①、その②と一部重複する内容となっておりますがご了承ください。
《デュピクセント®の注意すべき副作用》
経験症例でのデュピクセント®投与患者さんの中で、因果関係が疑われるものについては下記の図のような内訳になっています。
アトピー性皮膚炎病診連携講演会、清村講演スライドを改変
発売元のサノフィの薬剤情報(国際共同試験3試験)でも副作用は、403例名中注射部位反応29例(7. 2%)、アレルギー性結膜炎などの眼症状16例(4. 0%)、頭痛12例(3. 0%)の3つが頻度の高いものと報告されております。
最も頻度の高い結膜炎に関しては投与開始から比較的早期の2~4回目程のころに多く、ほとんどの方が抗アレルギー作用のある点眼薬で改善します。点眼薬で治療する前に眼周囲をかき壊してしまうと悪化しやすい傾向があります。
円形脱毛症に関しましては、ごく一部の患者さんで改善や逆に発症等の報告があります。原因は不明とされておりますが、デュピクセント®によってアトピー性皮膚炎のTh2型(※)の免疫の偏りが改善されることが関係しているのではないかと言われています。
※Th2型の免疫反応とは:Th2細胞により産生されるIL-4やIL-13をはじめとしたTh2サイトカインから始まる炎症反応で、多くのアレルギー性疾患のメカニズムに関与していることが知られています。人間にはTh1型の免疫反応と拮抗して免疫のバランスを保とうという仕組みがあります。
これらのことから基本的にはあまり重篤な副作用の報告が少なく安全性が高いことが特徴であり、下記にも示すメリットのひとつです。
《他のアトピー治療薬との比較も含めてのメリット・デメリット》
アトピー性皮膚炎の標準的な治療では、下記の図のように、まずは現状の症状に適切なランクのステロイド外用薬を適切に外用することが大切です。湿疹の範囲が広い場合には痒みが強く、掻くことで悪化してしまうために、抗ヒスタミン剤に分類される内服薬を追加します。実はこれだけでもずいぶんと改善する患者さんがいます。
それでも、湿疹が抑えきれないケースで、右に挙げられる全身療法を追加します。
サノフィ提供資料
いずれの全身療法も皮膚の炎症や痒みを抑えるのに効果的ですが、それぞれにメリット、副作用を含むデメリットがあります。
特に、経口ステロイドはステロイド外用薬と違い、生活習慣病や骨粗鬆症・骨折のリスクとなりますので、一過性の悪化時に短期間の投与にとどめることが多い治療です。
また、シクロスポリン(ネオーラル®)は2008年にアトピー性皮膚炎の全身療法として承認されました。免疫抑制剤に分類される内服薬ですが、これまでアトピー性皮膚炎のみならず他の疾患においても多くの使用経験があり免疫抑制剤の中でも安全性が高いお薬です。一方で腎機能障害や高血圧のある方、内科的疾患があり免疫機能が落ちている方には慎重に投与する必要があります。またアトピー性皮膚炎治療薬のデュピクセント®その①でも記載した通り、多くの患者さんに有効な場合が多い一方で、一部の重症患者さんでは炎症を抑え込むことができない場合があります。
デュピクセント®のメリットのお話をする前に、アトピー性皮膚炎のメカニズムとデュピクセント®の効果の作用機序を少し知っておく必要があります。
下の図はアトピー性皮膚炎のメカニズムを説明するシンプルな模式図です。
アトピー性皮膚炎の病態メカニズムはこれまで様々な研究により多くのことが分かってきましたが、皮膚の持続的炎症の形成には免疫細胞のひとつであるTh2型細胞が出すIL-4、IL-13というシグナルが重要な役割を果たしています。
サノフィ提供資料
デユピクセント®はまさに、このIL-4/IL-13のシグナル伝達を抗体(ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体)でブロックするお薬なのです。免疫機能全体を抑え込むのではなく、アトピー性皮膚炎のメカニズムに関係するところだけをピンポイントでブロックするために、重篤な副作用が少なく、かつこれまでの経験や報告からもシクロスポリンでコントロールが難しかった場合にも有効であることが最大のメリットと言えます。
一方で、デメリットとしては多くの場合は、
✔特に1年目の費用が高額
✔高額療養費制度などの手続きのステップが必要でお金の仕組みが難しい
ということです。また、
✔重症な15歳以下の小児には使用できない
✔注射が苦手な方に使用しづらい
といったことも挙げられます。
費用面に関しては、最終回のアトピー性皮膚炎治療薬のデュピクセント®その④で詳しく取りあげておりますのでぜひ参考にされてください。
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キーワード:アトピー性皮膚炎の新薬、デュピクセント、結膜炎、経口ステロイド、シクロスポリン、アトピー性皮膚炎の病態メカニズム、Th2、IL-4、IL-13、抗体でピンポイントにブロック、高額療養費制度、清村咲子